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不動産コンサルタントの始末記。突然の相続対策、不動産投資の失敗への警告、不動産セミナー&ビデオ、書籍販売、不動産トラブル処理など、実務に即したコンサルティングを提供します。
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倉 橋 コ ン サ ル 始 末 記
Customer Focus Consulting Networks

バブルが残したトラブル処理 Part14

倉橋コンサル始末記は、住宅新報に連載されています。


不動産コンサルタント始末記

第14話 物権放棄

 「先生、あの美人さん、放棄書、くれましたぜ。」わざと時代劇調なふざけた口調で、高橋から連絡が入った。「失礼しました。あの前田さん、あまりてこずることなく、放棄書、頂けました。」随分簡単に書類が取れた様子で、上機嫌だった。
 差押手続きから、わずか3日目であった。
 「あ、そう。」倉橋は、前田母子の行く末を考え、少し曇った様子で応対した。「で、何処に引っ越すの。」
 「いやぁ、まだ決まってないようなんですがね、とりあえず友達の所に引っ越せるようなことは言ってました。」道具屋家業を長くやっている高橋には、放棄書を取得することが目的であるから、債務者の引越先など興味はない。引越がなされなければ、その放棄書をもとに残存物を処分してしまえばよい。高橋からしてみれば、保管費用が掛からないのだから、この放棄書はかなり価値があるのである。「何ね、引越先が決まったら、その荷物を引越先に届けてやる約束ですけどね。」
 「ああ、そう。じゃぁ、前田さんから連絡があれば、こちらにも連絡を下さい。」そう言って、倉橋は電話を切った。
 「廣瀬、前田さん、放棄書出したそうだ。」別件の訴状を作成している廣瀬に対し、倉橋は言った。「ちょっとさぁ、心配だから時間があるとき、確認に行ってくれる。」
 「先生、心配なの娘でしょ。」廣瀬は、倉橋が少々、感傷的になっていることを知っていた。「先生の所のお嬢さんも、高校生ですもんね。」
 「ん〜、例のクリスマスプレゼントな、泣かせるよな。」差押物件の中に、他界した父親からプレゼントされたステレオセットがあり、差押を拒んだ前田の娘、はじめの様子を思い出し、自分の娘とオーバーラップしていた。「お前の所の娘も大きくなってくれば、何となく空しい気持ちが分かると思うよ。とにかく、強制執行だけは回避しような。」
 「了解。」廣瀬は、倉橋の気持ちを汲んで、コンピューターのスイッチを終了させた。「いまから行ってきます。」そういうと、早速、出かけていった。
 「前田さん、CFネッツの廣瀬です。」廣瀬は、前田のマンションのインターホンを押し、言った。「いらっしゃいますか。」何度か、インターホンを押した。
 「はぁい。」中から面倒臭そうな声で、前田が玄関に現れた。「何ですか、もう出るって言ってるんですから良いじゃないですか。放っておいてください。」
 「いやね、うちの先生が、今回の件は、強制執行だけはぜひとも避けたいって言ってるもんで。」単刀直入に、廣瀬は言った。「前田さん、強制執行って、ご存知ですか。」
「いいえ。」ちょっと不安げに、前田は言った。
 「強制執行ってね、この間の執行官や道具屋さんがきてね、前田さんの荷物を強制的にこのマンションから出してしまう手続きなんです。」廣瀬はなるべく分かり易い言葉で前田に言った。「それは、前田さんの意思に関係なく、荷物なんかを外に出してしまう、ということなんです。」
 「そんな勝手なことが、できるんですか。」
 「できるも何も、そういうことなんです。」廣瀬は前田が何か言おうとした言葉を止めて、更に言った。「でね、その強制執行まで3週間なんです。あまり時間がありませんから、引っ越すようであれば、早めに準備してください。」
 「分かりました。分かりましたが、あと少し時間は頂けないんですか。」前田は、初めての経験に戸惑っていた。「私1人なら友達の家に転がり込めばよいのですが、娘がいます。娘の住む場所を探すのに、少し時間が掛かると思います。」
 「いいえ、残念ですが、強制執行を延ばすわけにはいきません。」廣瀬は、きっぱりと言った。「いままでも、引越をするチャンスはあったと思います。私共も、いままで手続きを取りながら時間をかけています。これ以上、時間を延ばすことはできません。急いで、次の住む場所を探してください。」
 「じゃぁ、あなた、探して頂けない?」前田は、廣瀬に次の住まいの斡旋を依頼した。「あなたの会社も、不動産、取り扱っているんでしょ。」
 「いやぁ、残念ですが、それも出来ません。私共で、このような形で出ていただく人に対し、新たな住居の斡旋はできません。」廣瀬は、小声で付け加えた。「今回の件を正直に話せば、不動産屋さんは部屋を貸してくれませんよ。内緒で探してください。」
 「分かりました。」そう言って、前田はマンションの扉を閉めた。
 その後、廣瀬が2度ほど訪問し、倉橋が強制執行当日の1週間ほど前に訪問したが、結局、前田はインターホンにも出ることはなかった。
 強制執行前日の夜、倉橋と廣瀬、そして明日に備えて横浜に出てきた吉田は、打合せも含めて中華街で一緒に食事をした後、倉橋の運転する乗用車で前田のマンションの前を通った。

その夜、前田の部屋の明かりは、ついていた。

「高橋さん、前田さんね、まだ引っ越してないないね。」倉橋は、秀栄の高橋に携帯電話で連絡を取った。「しかた、ないね。」
 「先生、珍しく感傷的ですね。」明日の強制執行の準備に忙しい高橋は、面倒くさそうに言った。「放棄書とってるから、なんてことないですよ。」

久しぶりに、嫌な光景を目にするな、と倉橋は運転しながら思った。


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