あの「バブル経済」は大手銀行と生命保険会社を詐欺集団と化した!Part4
「いったい、私たちが何をしたっていうんでしょう。」
「オーナー」は、か細く、また、力なく私にいった。
もともと、この「オーナー」は「サラリーマン」である。
親から引継いだ資産を減らすことなく、当初は給料の中から「固定資産税」等を負担しながら何とか凌ぎつづけてきたが、
「不動産保有」の「重税」には耐え切れずに、少しではあるが「銀行」から「借金」をして、「アパート」を建築し、
その「賃料」の殆どを「銀行返済」と「税金の支払」に回しながら、何とか家計を維持していた。
そんななかで、ただでさえ「重税感」に苦しんでいるのに「将来」の「相続税」の支払いとなれば、「不安」は付きまとうものである。
一般のひとから見れば、いわゆる「地主」というと「羨望な想い」を持つ人が多いが、実際、ほとんどの「地主」は、
この「不動産保有に関する税金」と「相続税の負担」で、たいへんな苦労をしている。
例えば「1億円の土地」に「1億円」かけて、「アパート」を建てて運用した場合、賃料が年間「1200万円」あがるとすれば、
総資産に対して「賃料」の利回りは「6%」である。
不動産を持たない人は「固定資産税の負担が軽すぎる」などと馬鹿なことを言う人もいるが、
この「資産」に対して「固定資産税評価を70%」とすれば、年間238万円ということになり、この金額を「賃料収入」で割ればわかるとおり
「約20%」にもなる。おまけに「1億円の建築資金」を銀行から借りていると金利「3%」にしても「300万円」だから
「賃料収入」を基準に考えれば「25%」にも達する。つまり「賃料の45%」は収入には結びつかず、おまけに残った「55%」の収入に対して
「不動産所得」として「20%」も取られてしまうのだから、「賃料収入」の「66%」、「半分以上ものお金」が、
「銀行」と「税務署」にもって行かれる計算になるのである。
言い換えれば「賃貸住宅経営のリスク」は、すべて「地主個人」がもって、何もしない「税務署」と、
優良な「土地を担保」にとって「リスクの低い融資」をしている「銀行」が「収入の66%」ももっていってしまうのだから「地主」にとっては、
とても軽い負担ではないのだ。
そして、おまけに「不動産の保有」に対して絞るだけ絞られた挙句、死んだときには「相続税」として「相続人」の負担が残る。
生きているときには「賃料収入の66%」も「税務署」と「銀行」にもっていかれて「実収入」にはならず、殆どの「地主」は、
死んだときには総資産に対して「50%以上の税率」で課税されるのだから、このままでは「地主」は、どんどん「貧乏」にならざるを得ないのである。
「税務署」は「大蔵省」、「銀行」も「大蔵省」、そして皮肉なことに、今回の「変額保険」を認可したのも、
結局「大蔵省」なのだ。
「ところで、相続対策は何かやっておられますか?」
毎月、保険料の集金にくる、いわゆる「セールスレディ」から、この保険の勧誘は始まった。
もともと「オーナーの妻」は「明治生命」とは、この「セールスレディ」の前の担当者からの長い付き合いであった。前の「担当者」も、
今度の担当者もよく、「売上(成績)」が足りないからといっては「保険」を勧め、ちょっとした「生命保険」は付き合いで入ってあげていた。
「生命保険」は「貯金」のつもりだし、万一、払いきれないときは解約すれば「解約返戻金」もある。長くかけていればそれほど「損するもの」
でもないだろうと考え、その当時「明治生命」には、既に家賃収入を利用して「10本」以上も「生命保険」に入ってあげていた。
毎月、自宅に集金に訪れては世間話と併せて保険を勧めるから、なんとなく、お付き合いで言われるままに保険に入ってあげていたのである。
そんな関係もあり、この「担当者」とは気を許せて話せる間柄だと、オーナーの妻は思っていた。
「そうねぇ、これといってアパートを建てたくらいで、何もしていないわね。」
相続対策という言葉は常に念頭にあり、
また、この担当者には気を許していたから、相手からの突然の「相続対策」という言葉にも、すぐに興味を持った。
「何か、やらなければいけないとは、思っているのよ。」
「これだけの土地があるんですから、相続対策を真剣に考えないと...。」
何度か訪問しているうちに「オーナー」の資産背景も充分把握したのだろう。
「うちには、相続対策になるいい保険があるんですけど、一度、説明だけでも聞いてみません?」
それは、本当に軽い会話であった。
「保険の話」であるし、「相続対策」になるというのであれば、話くらいは聞いてあげようということになり、その後間もなく、
この「担当者」とともに「明治生命の所長」が自宅に訪れたのである。
その日「オーナーの妻」に対して「明治生命の所長」は、この保険についての簡単な説明を行って帰り、次回は「オーナー」の「妹」と「妻」を
同席させて同様な説明をした。「オーナーの妻」も「妹」も、この「明治生命の所長」の説明は「相続対策」になるということを
「強調」するだけで、どういう理由で「相続対策になるのか」や「保険の内容」は、一向にわからなかった。
たび重なる訪問で、自分では「相続対策の説明」ができないと思ったのか、1週間後くらい後に、再度、オーナー宅に明治生命の所長が訪れた。
「ご紹介します。」
明治生命の所長は、自慢げにいった。
「こちらが三菱銀行本店のファイナンシャル.アドバイザーの‘S’と申します。」
「オーナー本人」は、いつも7時半にならなければ帰宅せず、この日も応対したのは「妻」と「妹」だけであった。
この日、明治生命では所長と担当者、三菱銀行は「K支店(今は出張所)」の支店長、支店長代理、
本店の専門家と称するファイナンシャル.アドバイザーの5人である。この日は保険の説明ではなく、相続税の計算をするからと言う理由で、
その「専門家と称するもの」が資産を詳しく聞き、固定資産税評価額のわかる「名寄せ帳」を持って帰った。
何が何だか解らないが「相続対策」になるからと言う理由で「明治生命」の「所長」から「三菱銀行の支店長」、
併せて「本店の専門家」まできてくれた。
オーナーの「妻」も「妹」も、私たちの為に、こんなに親切にしてくれるのでは、この「保険」に入らなければ、何だか悪いような気がしてきた。
「次回はご主人様ともお会いさせて頂き、具体的にお話しを進めさせて頂きたいと思いますが...。」
オーナーの妻と妹を前に顔色を伺いながら、明治生命の所長は慇懃に言った。
「ご都合のよろしいのは、いつですかねぇ。」
「相続対策」と言う言葉に躍り、まだ当の「オーナー」の意向も聞かないまま「明治生命」の所長は、この「危険な保険」を
「危険であること」にみずからは気付かず、「高額保険契約の受注」に向け、突っ走っていた。
あまり乗り気でない「オーナー」を前に、前回同様、「明治生命の所長」、「担当者」「三菱銀行の支店長」「支店長代理」本店の
「ファイナンシャル.アドバイザー」の5人が現れたのは、それから約3週間後の平成元年の9月の半ばであった。
「先日、お預かり致しました資料から試算致しますと相続税は3億円くらいですから、3億円程度の保険に入っておいた方がよいでしょう。」
明治生命の所長は、三菱銀行の本店の「ファイナンシャル.アドバイザー」の計算した「相続税納税額」を基準に、3億円の保険に入るように勧めた。
応接間のソファーは5人もの来訪で席は埋まり「妹」と「妻」が応対する中、「オーナー」本人は少し離れたところに座って話を聞いていた。
3億円など、日常的な金額でないことは解っていたが「相続税」が3億円もかかってくるとなれば本格的に「相続対策」を考えなければ、とても、
そんなお金は今の家計からは、絶対に用意できない。
むしろ、今回の保険の問題より「3億円」と言う数字に、全員が「動揺」を隠せなかった。
「だって、そんな保険に入るのであれば、お金がいるでしょう?」
オーナーの妹は質問した。
「うちにそんなお金、ないですよ。」
「ですから、お金は要らないんです。」
相変わらず明治生命の所長は穏やかな口調で言った。
「お金は全額、三菱銀行で借りればいいんです。」
「だって、借りればいいって、借りたら返せないじゃない。」
何だかきつねに抓まれたような気持ちでいった。
「借りたら利息も払えないじゃない?」
「払わなくたって、いいんです。」
明治生命の所長は、きっぱりと言った。
「土地を担保にいれれば、利息などの心配は要らないんです。後は私どもに任せてくれれば、いいんです。」
だいたい「3億円」相続税がかかるから「3億円分の保険」に入るなど、普通、「相続対策の仕事」をしているものからすれば、
とても馬鹿げた論理である。
「借金しなければ、相続対策にならないんですっ!」
併せて、自信ありげに、
「天下の明治生命と三菱銀行がついているんですから、絶対に、損させることはありません!」
明治生命の所長、三菱銀行の支店長、いわば責任者であるものが胸を張って言うのだから、間違いないと、全員が思った。
かくして談笑のなか、虚像の「相続対策」は行われていったのである。
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